鈴鹿萌子

  • テキスタイル
  • 工芸
  • レコメンド塩谷舞
  • レコメンド牧野圭

ウェブサイト

https://moekosuzuka.theshop.jp/

作品

CV

1989年生まれ。同志社大学で広告研究を専攻しつつ、学芸員資格を取得。研修先の京都民芸資料館で民藝を知り、美に包まれて過ごす生活のイメージが残る。
2012年、主に日本の古美術を扱う株式会社 思文閣に入社。作品管理とカタログ作成を行う中で、様々な作品に触れる。ガラス越しではない作品との対面に興味を持つとともに、特に日本美術への関心の薄れに問題意識を持つ。
2017年、制作と染織への興味が高じて退職。京都造形芸術大学 通信教育部で染織を学び、2020年に卒業。現在は、個人が美しいものを楽しむための方法を模索し、常に美術と工芸の間を揺れ動きながら、京都にて制作している。
2021年、第56回神奈川県美術展 入選、工芸都市高岡クラフトコンペティション 入選。

ステートメント・PR

○ステートメント:
 自宅で麻糸を藍染めし、手織りで作った作品たち。織によって現れる細やかな表情との出会いを楽しんでいます。

「出現する面」
 ぐにゃぐにゃと曲がる線だった糸を揃えて、緯糸を入れる。するとだんだん丈夫になってきて、布という面が現れる。針金で作ったキューブの中に、糸さえ張れれば自在に面を作ることができる。「織り」の不思議に向き合った作品。

「古今の掛け物 Ⅰ-Ⅴ」
 古布や古画、しみのついたコンクリート、錆びたトタン板…時を経たものに心動かされる。時間の経過のかたちを抽出し、閉じ込めたら、何を感じられるだろう。
 絣織りと組織織りの組み合わせにより、規則的だった模様に生まれる変化が楽しい。中央下部の四角はパッチワークではなく、綴れ織りの技法で同じ面に織り出し、よりスマートな印象に。
 掛軸のかたちを借りるのは、布作品の柔らかさに、程よい緊張感を与えてくれるから。また、掛軸を部屋に飾る人は減少しているが、小さく保管でき、掛け替えが簡便で、掛ける所作も美しい。伝統ある形式ながら、現代生活にも形を変えて生きるだろう。

「In a circle」
 日が昇って沈み、季節が巡ってくるように、時間は大小の繰り返しの中で、不可逆的に変化していく。時に無慈悲にも思える変化だが、その中に生きた一瞬一瞬があったことは確かだ。必ず起こる変化の中で、それでも覚えていたいものを大切に抱き、良く変化を続けていきたい。
 今作は、そんな時間のイメージを込めて制作した。絣織りと糸の本数をランダムに変化させた複雑な織パターンの交差によって、細やかな模様の変化が生まれている。無地に見える部分にも、チラチラと見え隠れするドットや線を感じられるだろう。計画性が求められる織作品において、これらの模様はある程度偶然にまかせている。人が生きる中で受ける化学反応が、このような美しいものになりますように。
 緯糸を入れていない部分には、写真やポストカード、ドライフラワーなどを飾ることができる。持ち主の大切にしたい一瞬を留めておける掛け物として使い、それを設えた新たな時を彩ってほしい。時間に思いを馳せながら、新たな思い出が紡がれていく。
 これらは、お茶会等で昔の人物の手紙を掛軸にして鑑賞する文化から発想した。作品の形状も、そういった「消息掛け」から拝借している。

 

審査員コメント(塩谷舞レコメンド)

まずは作品写真に、次いで作家経歴に、そしてステートメントにも惹かれてしまいました。鈴鹿さんが抱いてきた好奇心や問いが、そのまま次の居場所となり、そして作品になっていく生き様の魅力的なこと! ガラス越しではない作品との暮らしの追求など、共感することばかりです。 ただ残念ながら、今の日本に鈴鹿さんの作品の魅力を損なわずに受け入れられる居住空間は多くないかもしれません。作品単体でも強さを保てる欧米的なアートピースとは異なり、空間の協力がなければ、ともすると負けてしまうかもしれない。けれども糸が面になるように、近しい価値観を持つ者達の活動で価値観を広げていくことが出来ますし、私も増やしていきたいなと思っています。これからのご活動を応援していますし、なにか私に出来ることがあればぜひご一緒したいです。

審査員コメント(牧野圭レコメンド)

民藝、工芸⇔アートの境目…個人的に最近とても関心があることに着目して制作されており、作品を拝見するのみでなく、ぜひお話も伺いたいと思いました。日常にアートが溶け込むのはいいことだなあ、と思うのですが、果たして「アート作品」だけが日常のアートなのでしょうか。日常使いできる窯元・工芸作家が手掛ける器であったり、タペストリー、カーテン、家具…なんでもアート作品と見立てようと思えば見立てられる気がしますね。作品拝見して、アートという言葉であったり、美術・工芸という「言葉」の力・面白さ…まで改めて考えてしまいました。伝統的な作品や装具を現代的に仕立てている作品が多いように思いましたので、「令和の茶室」や「令和の日本家屋」みたいなテーマの展示があったら面白い&素敵な空間になりそうだな!と思いました!!

実行委員コメント

ご自身で糸を藍染めし、丁寧に手織りした作品と一緒の空間を共有するという、クラフト〜アートの境界を行き来する鈴鹿さんのプレゼンテーションは、塩谷舞さん、牧野圭さんのレコメンドを受け、作品展示を楽しみにしていました。折しも牧野さんがトークイベントで「掛け軸の文化が衰退したのは、家に床の間がなくなったから」という含蓄のある発言をされていたなか、今回の展示空間で鈴鹿さんの作品の魅力をきちんとお伝えできるだろうか不安でもありましたが、たくさんの来場者に鈴鹿さんの作品を受け止めていただき、お買い上げもしていただけたのは、作品の魅力はもちろん、鈴鹿さんの人柄によるところも大きかったと思います。ありがとうごごいました。

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