鍛冶周作
作品



北海道生まれ
2017年 武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業
2020年 シェル美術賞2020入選
2021年 第56回神奈川県美術展美術奨学会記念賞受賞
2022年 明日をひらく絵画 第40回上野の森美術館大賞展入選
私が19歳の時、アメリカに旅行へ行った際、到着の翌々日にMOMAへ訪れた。そこでは大学の講義や、高校時代に美術の教科書で見てきた近現代の名画や立体作品が目白押しで、前から実物を見てみたかったシャガールの「私と村」が思いの外サイズが大きく感じられたり、倉敷の大原美術館で見たことがあるゴーギャンの作品がちょうどMOMAのゴーギャン展のために貸し出しで来ていて、久しぶりに思わぬところで再会を果たすなど、印象的な作品が多くあった。しかしここで最も強く惹かれた作品は、おそらく次回の展示替えのために仮設壁の間に鎖が張られて、鑑賞者が入れなくなっている部屋に掛けられていたために、近くでは見ることができずに壁の間から覗き見たポロックの作品であった。
後日その旅行を振り返り、MOMAで見たポロックの絵画のことを思い、その画面の拡張性について考えを巡らせた。ポロックの大きな絵画は、展示壁の白い壁全体を地に代えてしまうような錯覚を起こすように感じられ、これは絵画空間としてはイリュージョンを排し、それでも画面の淵のインクの塗り残し部分とキャンバス地との間に極めて浅い空間が構築されており、その大きな画面以上の空間の広がりを備えているように感じた。
私は大学時代、洋服のデザインの勉強をしていたが、在学中どこかの時点で、自分は洋服を着ることの喜びが好きなだけで、実際に洋服を作り、誰か他の人のお洒落のための手伝いをするという未来が思い描けなくなっていたことに気づき、なんとなく進路を決めかねて就職をすることもなく美大を卒業した。卒業直後は、作家になろうと決意するでもなく、やることもないから制作を惰性で続けていたが、そんな時に道標となってくれたのが、旅行で見たポロックの作品だった。
具体的に自分の作品の話をすると、画面の中の色面は、製版されていない紗を張っただけのシルクスクリーン枠に、刷りたい形に紙のステンシルを作成して刷られている。複数の版を用いており、中には使い込んで網目がインクで詰まり、詰まった目の部分に刷り残しができる版や、紗を張ってから時間が経過しておらず、綺麗な色面を刷ることができる版などがある。それぞれ使用感の異なる、別様の時間を内包した版の色面で置き換えることにより、ポロックが作り上げた薄彫りの浅い空間を、別様の角度から作り上げることができるのではないかと考え、作品制作を続けている。
応募点数が3点だけで、サイトリンクもSNSもないのですが、その3点から、既に美術の教科書に出てくるようなクラシック感を感じてしまいました。JIKAN Design 鍛冶周作さんのレコメンドにもあるように、リズム感のある軽やかな画面構成や、シルクの版を何度も重ねて作られたレイヤー、色のトーンと白の配色など、どれもプロの手業を感じさせます。作品サイズどれくらいなんだろう、原画が見てみたい、他の作品ももっと見てみたいと思わせる作家さんです。
リズムを感じる不思議な作品だなぁと。 僕も昔、MOMAでみたポロックがすごく良かったことを思い出しました。なんだかピュアな気持ちになりました。